発達・個性

10歳の壁・9歳の壁とは?勉強と心のつまずきに親ができること

10歳の壁(9歳の壁)は、9歳ごろから考え方が具体から抽象へ変わり、勉強のつまずきや友だちとの比べ合いが目立ちやすくなる節目の呼び方です。言葉の由来、家で見えるサイン、親ができる5つのこと、相談の目安を紹介します。

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最終更新日
対象
8〜11歳
算数で止まったところをひよりに尋ねるけいすけ

「最近、算数が急に分からなくなったみたい」「『どうせ私なんて』と言うようになった」。小学3〜4年生ごろにこんな変化があって、「10歳の壁」という言葉を知った方もいるでしょう。壁と聞くと、何か大きな問題が起きているようで、不安になります。

でも、つまずきや落ち込みが見えたのは、親の教え方や育て方が悪かったから、とは限りません。文部科学省の資料も、9歳ごろからは考える力が変わる一方で、個人差がはっきりし、劣等感を持ちやすくなる時期だと説明しています。では、この時期の子どもの中で、何が変わるのでしょうか。

この記事では、まず「10歳の壁」「9歳の壁」という言葉の本当の由来を確かめます。そのうえで、勉強と心の両方で起きやすい変化、家で見えるサイン、親ができる5つのこと、相談の目安までを順に見ていきます。

10歳の壁は、できないことを責めるより、「分からない」を言える家にしておくほうが越えやすくなります。

10歳の壁とは?9歳ごろから「考え方」と「自分の見方」が変わる節目

10歳の壁とは、9歳・10歳ごろ、小学3〜4年生のあたりで、勉強や気持ちのつまずきが目立ちやすくなる節目を指す呼び方です。病気や障害の名前ではありません。

文部科学省の懇談会がまとめた報告は、9歳以降の時期を次のように説明しています。

  • 物事をある程度、離れたところから見て考えられるようになる
  • 自分のことも客観的にとらえられるようになる
  • その一方で、発達の個人差がはっきりしてくる(いわゆる「9歳の壁」)
  • 自己肯定感を持ちはじめる時期だが、自分に自信を持てず、劣等感を持ちやすくなる時期でもある

同じ報告は、この時期に大切にしたいこととして、抽象的に考えることへの慣れ、ほかの人の立場の理解、自己肯定感を育てることなどを挙げています。

つまり10歳の壁は考える力が育つからこそ見えてくる段差と言えます。できなくなったのではなく、求められることが変わり、自分の姿も見えるようになるのです。

9歳の壁と10歳の壁は同じもの?

ほぼ同じ節目を指しています。文部科学省の報告は「9歳の壁」と書き、本や論文では「9・10歳の壁」「10歳の壁」とも呼ばれています。年齢よりも、小学3〜4年生ごろに学ぶ中身と、自分の見方が変わることに目を向けると分かりやすくなります。

9歳の壁は、もともと聴覚障害教育で使われた言葉

「9歳の壁」という言葉は、もともと耳の聞こえにくい子どもの教育(聴覚障害教育)の中で使われはじめました。2020年の論文は、ほかの研究者の本を引いて、1960年代にはろう学校で「9歳の壁」や「9歳の峠」と言われはじめたと紹介しています。

論文によると、小学3年生ごろまでは暮らしの中の学習が中心で、4年生ごろからは本格的な教科の学習になります。聴覚障害のある子の中には、その移り目でつまずく子がいるとされ、ろう学校などでは、そこを越えるための指導が工夫されてきました。

この節目は、耳の聞こえる子どもにも見られます。文部科学省の報告でも使われるなど、今では子ども全体の話として語られています。2017年の論文によると、聞こえる子どもの場合、抽象的な考え方や記号にふれる機会が増えるうちに越えていく子が多いとされます。そのため、9歳の壁は一時的な「踊り場」ととらえられている、と紹介しています。

10歳の壁で勉強につまずく理由|具体から抽象へ

ひよりが紙に丸や線を描き、算数の問題を図で考える

10歳の壁で勉強につまずきやすいのは、学ぶ中身が「目で見て数えられるもの」から「頭の中で考えるもの」へ変わるからです。

文部科学省の懇談会で、京都大学の子安増生教授(当時)は、9歳の壁にあたる学びの例として次のようなものを挙げました。

  • 算数:分数、小数
  • 理科:比例、電気、磁力
  • 社会:統計
  • 国語:高い会話の力、作文

りんごやおはじきなら、目で見て数えられます。でも、分数や小数、比例は、目の前にある物だけでは考えにくくなります。同じ資料は、低学年と高学年の違いも図にしています。低学年は「100点が取れるテスト」で、学力の差が見えにくい。高学年は「100点より本当の理解」が問われ、学力の差が広がり、苦手意識も出てくる、という整理です。

ことばの細かな違いが、答えを分けるようになる

もう一つの段差は、ことばです。2017年の論文は、9歳の壁を「暮らしのことば」から「学習のことば」への移り目として説明しています。同じ論文は、暮らしのことばにも「9時までする」と「9時までにする」の違いのような、むずかしいものがあると紹介しています。短いことばの差で意味が変わると、文章題の読み取りもむずかしくなります。

文章題で手が止まる子は、計算ではなく、文章を頭の中で絵にするところでつまずいていることがあります。

10歳の壁で心がゆれる理由|自分が見え、人と比べ始める

10歳の壁で気持ちがゆれやすいのは、自分を外から見る力が育ち、ほかの子と比べられるようになるからです。

文部科学省の報告は、9歳以降は自分を客観的にとらえられるようになると書いています。その一方で、個人差が大きく見えるために、自尊感情が下がって劣等感を持ちやすくなる時期でもあるそうです。「〇〇ちゃんは100点だったのに」という言葉は、比べる力がついたしるしでもあります。

同じ報告によると、この時期は、仲間どうしで決まりを作って遊ぶようになり、閉じた仲間の集団ができやすい時期でもあります。友だち関係が、勉強と同じくらい大きな悩みになることもあります。

子安さんの資料には、6歳から9歳ごろにかけて、「AさんはBさんがこう思っていると思っている」のような、人の考えについての考えが分かってくると書かれています。それが分かる9歳ごろには、子どもが秘密を持つようになる、とも書かれています。親に何でも話さなくなるのは、この力が育ってきた表れとも考えられます。

10歳の壁のサイン|家で見えやすい変化と親の一言

10歳の壁のころに家で見えやすい変化と、そのときに使える一言を表にしました。サインがあっても、すぐ心配すべきというわけではありません。

10歳の壁のころに家で見えやすい変化と、返す一言の例
見えやすい変化その裏にありそうなこと返す一言の例
文章題や分数で急に手が止まる文章を頭の中で絵にするところで止まっている「どこまで分かった? 一緒に絵にしてみようか」
「どうせ私なんて」「むいてない」と言う人と比べられるようになり、差が見えている「前はここで止まってたよね。今はここまでできてる」
テストを見せなくなる点数で見られることへの恥ずかしさや不安「点数より、どこで迷ったかを知りたいな」
学校の話をしなくなる秘密を持てるようになった。友だち関係の悩みもありうる「話したくなったら、いつでも聞くよ」
友だちの話題が増え、仲間に合わせる仲間の集団ができやすい時期「そのグループで、楽しいのはどんなとき?」

真ん中の列は、文部科学省の報告と研究者の資料をもとに、この記事で考えた見方です。どれが当てはまるかは、子どもによって違います。

10歳の壁を乗り越えるために親ができる5つのこと

10歳の壁を越えるのは子ども自身ですが、親ができることもあります。ここでは、家で無理なく続けられる五つにしぼりました。

1. 「分からない」を言える空気をつくる

「なんで分からないの」と言われると、子どもは分からないことを隠したくなります。「分からないって言えたのはいいことだよ」と、言えたこと自体を受け取ります。

2. 友だちではなく、昨日の本人と比べる

「〇〇ちゃんは」と比べるより、「前はここで止まってたけど、今はここまでできてる」と、その子の前の姿と比べて伝えます。文部科学省の報告も、この時期に大切にしたいことの一つに、自己肯定感を育てることを挙げています。比べる気持ちが強いときの話し方は、友だちと比べる子どもへの4手順でまとめています。

3. 答えを教える前に「どこまで分かった?」と聞く

正しい解き方をすぐ説明したくなりますが、先に、どこで止まっているかを一緒に探します。文章題なら、文章を絵や図にするところまで一緒にやって、式は本人に任せます。

4. 抽象的なことばに、暮らしの中でふれる

2017年の論文が紹介するように、抽象的な考えや記号にふれる機会が増えると、壁を越えていく子が多いとされています。この記事では、「半分の半分って何分の一?」「この道、さっきの道の何倍?」のように、暮らしの中で軽く話題にする形をすすめます。ドリルを増やすことが目的ではありません。

5. 話さない時間も認める

秘密を持てるようになるのは、育っているしるしでもあります。根ほり葉ほり聞くより、「話したくなったら聞くよ」と待ちます。話を聞く時間のつくり方は、子どもの話の聞き方が参考になります。

迷ったら、まず3の「どこまで分かった?」だけで十分です。

  • もし「全部分からない」と言うなら、「じゃあ、1行目だけ一緒に読もう」と、いちばん小さい所から始めます。
  • もし勉強の話になると怒りだすなら、その日は勉強の話をやめて、別の日の短い時間にします。
  • もし「どうせ無理」と始める前に諦めるなら、「できない」とすぐ諦める子どもへの声かけも読んでみてください。

今日、宿題を見るときは、答えを言う前に「どこまで分かった?」と一度だけ聞いてみてください。答えが返ってこなくても、聞いてもらえたという感覚は残ります。

9歳の壁の手前で、ひよりが「算数むいてない」と言った日

2年生の3学期、かけ算の文章題のテストが返ってきた日のことです。8歳のひよりは答案を伏せて、「〇〇ちゃんは100点だって。わたし、算数むいてない」と言いました。けいすけはすぐに答案を広げ、「ここは、かけ算を使えばいいんだよ」と説明を始めました。ひよりは黙ってしまいました。

次の週、けいすけは担任の東まさと先生との面談で、このことを話しました。

その夜、けいすけは宿題の文章題を前に、「どこまで分かった?」とだけ聞きました。ひよりは「お皿が4枚あるのは分かった」と答えました。二人でお皿の絵をかくと、ひよりは自分で式を書きました。

この場面で変わったのは、教え方の順番です。けいすけは答えを教える前に、どこで止まっているかを一緒に探すようにしました。まどかは点数ではなく、前のひよりと比べて伸びた所を伝えました。9歳の壁を「越えさせる」より、越えるための足場を一つ置いた夜でした。

10歳の壁と発達障害・学習障害の違いは?相談の目安

10歳の壁のつまずきか、発達障害や学習障害か。様子だけでは、家庭で見分けることはできません。学校と様子を伝え合いながら、相談するかどうかを決めます。

文部科学省の手引は、学習障害を次のように説明しています。全体として知的な発達に遅れはない。それなのに、聞く・話す・読む・書く・計算する・推論するといった力のうち、特定の力がなかなか身につかなかったり、うまく使えなかったりして、学習で困っている状態です。多くの子がゆっくり越えていく10歳の壁と違い、読む・書くなど特定の力の困りごとが長く続くことが、相談を考える目安の一つになります。

10歳の壁と思っていても、相談したほうがいい目安

すぐに相談・受診

  • 「死にたい」「消えたい」と話す、自分を傷つける様子がある
  • いじめを受けている様子がある、学校に行けない日が続いている

早めに相談

  • 読む・書く・計算するなど、特定のことだけが学年が上がっても大きく苦手なまま続いている
  • 勉強の話になると、強い不安や腹痛・頭痛が続く
  • 「どうせ私なんて」が増え、好きだったことも楽しめなくなっている
  • 眠れない、食べないなど、いつもと違う様子が続いている

記録しながら相談を検討

  • どの教科の、どの場面で手が止まるか(文章を読む、図にする、計算する)
  • 図や具体物を使うと進むか
  • 友だち関係や、家での話す量に変化があるか

自殺のおそれがあるときは一人にせず、速やかに医療機関などへ相談してください。けがをしていて救急車が必要なときは119番です。差し迫った危険があるときは、記録をそろえるのを待たずに相談します。急がない相談は、担任の先生、スクールカウンセラー、かかりつけの小児科、市区町村の子育て・発達の相談窓口にできます。子どもや保護者の悩みは、24時間子供SOSダイヤル0120-0-78310にもつながります。

相談するときは、「10歳の壁でしょうか」と聞くより、止まる場所と進める場所を一つずつ伝えると話が早く進みます。たとえば「文章を図にするところで止まる」「図にすると自分で式が書ける」のように伝えます。

10歳の壁と反抗期は同じ?親子の距離が変わる時期

10歳の壁と反抗期は、同じものではありません。文部科学省の報告では、「親に対する反抗期」という言葉は、中学生の時期の説明に出てきます。9歳以降の時期の説明は、自分を客観的に見る力や、仲間の集団、劣等感が中心です。

ただ、10歳ごろに親子の距離が変わることはあります。秘密を持ち、友だちの影響が大きくなり、親に話さなくなる。そうした変化を「反抗」と受け取ると、親もつらくなります。話さなくなったことを責めるより、話したくなったときに話せる場所を残しておくほうが、この時期には合っています。「何もない」としか言わない子への聞き方は、「学校どうだった?」への返事が「何もない」ときの記事にまとめています。

10歳の壁でよくある質問

10歳の壁はいつまで続きますか?

決まった期間はありません。耳の聞こえる子どもの場合、抽象的な考え方や記号にふれる機会が増えるうちに越えていく子が多く、一時的な「踊り場」ととらえられていると紹介する論文があります。越える時期は子どもによって違います。

9歳の壁は文部科学省が決めた言葉ですか?

いいえ。もとは聴覚障害教育で、1960年代ごろから使われてきた言葉です。文部科学省の懇談会の報告も、9歳以降の発達の個人差を説明する中で「いわゆる『9歳の壁』」として紹介しています。

10歳の壁は男の子と女の子で違いますか?

この記事で確かめた文部科学省の報告や論文には、男女で分けた説明はありませんでした。報告は、この時期は発達の個人差が大きく見えると書いています。性別より、その子がどこで止まり、どこで進めるかを見ます。

10歳の壁で勉強が分からなくなったら、塾に行かせるべきですか?

まず、どこで止まっているかを一緒に探すのが先です。計算なのか、文章を図にするところなのかで、必要な手助けは変わります。担任の先生に、授業で止まる場面と進める場面を聞くと、家での手助けを選びやすくなります。

参考資料・出典

  1. 厚生労働省:「消えてしまいたい」というサイン

    確認日: 2026年10月28日自殺のおそれがあるときは一人にせず見守り、リスクが切迫するときは速やかに専門家へ相談する案内
  2. 文部科学省(国立国会図書館インターネット資料収集保存事業で保存された版):子どもの徳育の充実に向けた在り方について(報告)3.子どもの発達段階ごとの特徴と重視すべき課題

    確認日: 2026年10月15日9歳以降の小学校高学年は物事を対象化して認識し自分を客観的にとらえられるようになる一方、発達の個人差が顕著になる(いわゆる「9歳の壁」)、劣等感を持ちやすい時期、ギャングエイジ、重視すべき課題(抽象的な思考への適応、他者の視点の理解、自己肯定感の育成)。「反抗期」は中学生の時期の説明に出てくる。文部科学省の元のページは現在表示されない
  3. 文部科学省 子どもの徳育に関する懇談会(第2回)配付資料:子どもは「心の理解」をどう発達させていくのか(子安増生)

    公開・改訂: 2008年9月10日確認日: 2026年10月15日「9歳の壁」の図(国語・算数・理科・社会などの例、低学年と高学年での学力の個人差・理解の求められ方の違い)と、二次的信念は6歳から9歳(?)で理解できるようになり、それが分かる9歳ごろに秘密を持つようになるという説明。研究者による懇談会の発表スライドで、文部科学省のサイトに掲載
  4. 神戸親和女子大学児童教育学研究 第39号:聴覚障害児の文章題の指導を通した「9歳の壁」についての一考察(銀屋伸之)

    公開・改訂: 2020年2月29日確認日: 2026年10月15日脇中(2009、2013)を引き、1960年代にはろう学校で「9歳の壁」「9歳の峠」と言われ始めたこと、小学3年ごろまでの生活中心の学習から4年ごろからの本格的な教科学習への移行でのつまずき。聴覚障害児3人の指導実践の考察
  5. 淑徳大学社会福祉研究所 総合福祉研究 第21号:学齢期発達障害児の学習支援の焦点化―「5歳の坂」「9歳の壁」の視点からみた言語概念形成を中心に―(池畑美恵子)

    公開・改訂: 2017年3月31日確認日: 2026年10月15日9歳の壁を生活言語から学習言語への移行として説明し(「9時までする・9時までにする」の例)、聞こえる子どもでは抽象的思考や記号操作にふれる頻度が増えると越えていく者が多く、一時的な「踊り場」ととらえられていると紹介する研究ノート
  6. 文部科学省:障害のある子供の教育支援の手引~子供たち一人一人の教育的ニーズを踏まえた学びの充実に向けて~

    公開・改訂: 2021年6月確認日: 2026年10月15日第3編の学習障害の説明(全般的に知的発達に遅れはないが、聞く・話す・読む・書く・計算する・推論するといった能力のうち、一つないし複数の特定の能力をなかなか習得できなかったり、うまく発揮できなかったりして、学習上様々な困難に直面している状態)
  7. こども家庭庁:児童相談所虐待対応ダイヤル「189」について(その他の相談窓口)

    確認日: 2026年10月15日24時間子供SOSダイヤル(0120-0-78310)は、いじめなど子どものSOS全般について、子どもや保護者が夜間・休日を含めて24時間相談できる全国共通のダイヤルであること
  8. こども家庭庁:相談窓口

    確認日: 2026年10月15日自治体の子育て・発達の悩みなどの相談窓口と、子ども・保護者が使える電話・SNS相談先の一覧
  9. 総務省消防庁:119番緊急通報

    確認日: 2026年10月15日119番は、消防車・救急車が必要なときにかける緊急通報

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