「歯みがきしたらシール1枚ね」。子どものご褒美は手軽で、使ってみると子どもも喜びます。でも、「ご褒美で釣るのはよくない」「ご褒美がないとやらない子になる」と聞くと、手が止まってしまいますよね。
結論から言うと、ご褒美は一律によくないわけではありません。研究で注意されているのは、もっと限られた場面です。たとえば、子どもがもともと好きでしていることに、前もって物を約束するようなときです。反対に、新しい習慣を始めるときなどは、ご褒美が助けになることもあります。では、その分かれ目はどこにあるのでしょうか。
この記事では、まず研究で分かっていることと、その条件を整理します。そのうえで、ご褒美が役に立ちやすい場面と向かない場面、使うときの決まり、シール表の作り方、お菓子やお金の考え方、そしてご褒美の減らし方を順に紹介します。
ご褒美は「使うか使わないか」より、「何に・どう使って・いつやめるか」を先に決める。そうすれば、ご褒美はやる気を下げる道具ではなく、習慣の入口として使いやすくなります。
子どもへのご褒美はよくない?答えは「使い方しだい」
ご褒美がよいか悪いかは、何に、どんなふうに使うかで変わります。研究で見えてきた分かれ目は、大きく3つです。
- その活動を、子どもがもともと楽しんでしているか
- ご褒美を前もって約束しているか、思いがけず渡したか
- 物のご褒美か、言葉で認めることか
米国疾病予防管理センター(CDC)は、幼い子が新しいことを習慣にするまでは、小さなご褒美が必要なこともあると書いています。ご褒美そのものを怖がる必要はありません。気をつけたいのは好きでしていることに、物のご褒美を前もって約束する組み合わせです。
ご褒美で「やる気がなくなる」のはどんなとき?研究の条件
ご褒美がやる気を下げることがある、という研究は1970年代から続いています。この現象は「アンダーマイニング効果」と呼ばれます。ここでは、その中身を条件ごとに見ていきます。
好きでしていることに、前もって物を約束すると下がることがある
デシ(Deci)らは1999年、128の研究をまとめて分析しました。その結果、もともとおもしろいと感じている活動に、前もって約束した物のご褒美を渡すと、ご褒美がなくなった後にその活動を自分から選ぶ時間が減る傾向が見られました。
子どもでは、大学生よりも物のご褒美の悪い影響が出やすい傾向もありました。一方で、「よくできたね」のような前向きな言葉は、全体としては意欲を高める方向でした。ただし、子どもだけで見ると、はっきりした効果は見られませんでした。
思いがけないご褒美や、気が進まない作業では下がらなかった
同じ分析では、前もって約束していない、思いがけないご褒美では、意欲は下がりませんでした。また、もともとおもしろくない作業では、ご褒美で意欲が下がる様子は見られませんでした。
つまり、「ご褒美でやる気がなくなる」は、どんな場面にも当てはまる話ではありません。起きやすいのはもともと好きなことに、約束した物のご褒美を重ねたときで、条件つきの話です。
研究者の間でも、見方は分かれている
キャメロン(Cameron)らは2001年、同じような研究を分析し直し、ご褒美は全体として意欲に害があるとは言えない、という結論を出しました。悪い影響が見られたのは、おもしろい活動で、物のご褒美を前もって約束し、出来とあまり結びつけずに渡したときだったとしています。一方、レッパー(Lepper)らは1999年に、それ以前のキャメロンらの分析よりも、デシらのまとめのほうが研究の結果を正しく表していると述べています。
ご褒美が役に立ちやすい場面と、向かない場面
研究の条件を家庭の場面に置きかえると、次のように分けられます。これはこの記事が研究をもとに整理した目安で、すべての子に同じように当てはまるわけではありません。
| 場面 | ご褒美の使いどころ | 理由と代わりの方法 |
|---|---|---|
| 新しい習慣を始めるとき(歯みがき、朝の支度など) | 使いやすい | 始めの手がかりになる。習慣になったら減らす |
| 気が進まない作業(片づけ、苦手なお手伝い) | 使いやすい | おもしろくない作業では、研究でも意欲が下がる様子は見られなかった |
| もう好きでしていること(読書、お絵かき、工作) | 向かない | 約束した物のご褒美で、自分からする時間が減ることがある。言葉や一緒に楽しむ時間で返す |
| 思いがけず、がんばっていたとき | ときどきならよい | 約束していないご褒美では、意欲は下がらなかった。毎回にすると約束と同じになる |
| 叩く・飛び出すなど、危ない行動を止めたいとき | 向かない | まず安全を守る。ご褒美の交渉で止めようとしない |
| 食事・睡眠・トイレなど、生活に必要なこと | 条件にしない | ご褒美を取り消す形で、生活に必要なものを減らさない |
迷ったら、「この子は、ご褒美がなくても前からこれを楽しんでいたかな」と一つだけ考えてみてください。楽しんでいたなら、物のご褒美は足さずに、言葉で返します。具体的な言葉の返し方は、具体的に褒める声かけ例にまとめています。
ご褒美を使うなら守りたい5つの決まり
CDCの幼児の保護者向けページ「Tips for Using Praise and Rewards」をもとに、小学生の家庭でも使いやすい形に整理しました。
- 行動を一つ、具体的に決める:「いい子にする」ではなく「歯みがきを最後までする」。何をしたらよいか、子どもが分かる言葉にします
- すぐに渡す:CDCは、行動のすぐあとにご褒美を渡すことをすすめています。時間がたつと、何に対するご褒美か分かりにくくなります
- 小さく、お金のかからないものから:一緒に過ごす時間、ハイタッチ、好きな遊びを一つ選べる、なども立派なご褒美です
- 一度もらったご褒美は取り上げない:CDCは、もらったご褒美は子どものもので、ほかの行動を理由に取り上げないよう書いています
- 始めは多めに、習慣になったら減らす:最初はこまめに渡し、できる日が増えたら、次の目標に変えるか、表そのものを卒業します
ご褒美を渡すときは、「歯みがき、最後までできたね」と、何ができたかを言葉で添えます。CDCも、ご褒美を渡すときに、何をしてそれをもらえたのかを伝えることをすすめています。
泣いている最中の「やめたらあげる」は、ご褒美と分けて考える
この記事でいうご褒美は、落ち着いているときに前もって決めた約束です。泣いたり怒ったりしている最中に、「泣きやんだらお菓子ね」とその場で持ちかけるのとは分けて考えます。
その場の取引がくり返されると、子どもには「困った行動のあとに、いいことが出てくる」という流れに見えることがあります。もちろん、その場をおさめるために使う日があっても、親を責める必要はありません。続いているなと感じたら、落ち着いた時間に、前もって決める約束に置きかえていきます。泣いてやり過ごす流れが気になるときは、「泣けば許される」と感じたときの対応も参考になります。
ご褒美の約束は、子どもと一緒に決める
どの行動に、何を、いくつで渡すかは、子どもと話して決めます。目標は、子どもが「それならがんばれそう」と思える大きさにします。CDCも、ご褒美が子どもの手の届かない目標になっていないかを見直すようすすめています。親が決めて言い渡すより、一緒に決めた約束のほうが、守れなかった日にも話し合いに戻りやすいと、この記事では考えます。
ご褒美シール表(台紙)の作り方|3歳から使える手順
シール表は、紙1枚と鉛筆があれば作れます。市販の台紙を買わなくても始められます。
ご褒美シール表を作る手順
- がんばりたい行動を一つ選ぶ(例:朝、自分で着替える)
- 絵と短い言葉で書く。字が読めない子には、行動の絵をかく
- 子どもの目の高さの、毎日見える場所にはる
- できたら、すぐに子ども自身がシールをはる
- シールが何枚たまったら何があるかを、子どもと一緒に決める
- 1〜2週間たったら、続けるか、行動を変えるか、卒業するかを話す
CDCは、幼い子には絵を使った表がよく使われ、子どもが分かるように絵と簡単な言葉で作るとよいとしています。1〜2週間で見直すというのは研究で決まった期間ではなく、この記事が勧める区切りです。
3〜5歳は、シール1枚そのものを楽しみに
3〜5歳では、たまったら何かをもらう形より、シールをはること自体を楽しみにする形から始めると、ご褒美を大きくしなくてすみます。たまる枚数は5枚くらいの、すぐ届く数にします(枚数は、この記事の目安です)。目に見える予定表を家で使っているなら、見通しカードを家庭で続ける方法と組み合わせることもできます。
小学生は、ポイント表を自分でつける
小学生になったら、ポイント表を子どもが自分でつける形にすると、自分で決めて続ける練習になります。ポイントでもらえるものは、子どもと一緒に選びます。CDCも、大人が好きなものと、子どもがほしいものは同じとは限らないと書いています。
ご褒美のお菓子・お金・ゲーム時間はどう考える?
どんなご褒美を選ぶかでも、気をつけたい点が変わります。
| ご褒美の種類 | 使いやすい点 | 気をつけること |
|---|---|---|
| シール・スタンプ・ポイント | すぐ渡せて、たまっていくのが目に見える | 行動を一つにしぼり、卒業の日も決めておく |
| 一緒に過ごす時間・選べる遊び | お金がかからず、親子の時間にもなる | 約束した時間は、親の都合で取り消さない |
| お菓子 | 子どもが喜びやすい | 米国小児科学会は、甘いもののご褒美は、よい行動のたびに期待するようになると問題になるとしている |
| お金・おこづかい | 数を数える、ためる練習になる | お手伝いの「お礼」と、約束を守った「ご褒美」を分けて考える |
| ゲームや動画の時間 | 子どもがほしがりやすい | 寝る時間や宿題の時間を削らない範囲で、上限を先に決める |
お菓子については、米国小児科学会も、甘いものを全部禁止すると、かえって欲しくなることがあると書いています。ときどきのおやつは家族の楽しみにして、毎回の行動のご褒美にはしない、という分け方が使いやすくなります。
ご褒美がないとやらない?と感じたときの減らし方
「ご褒美がないとやらない子になった」と感じても、それは失敗ではありません。表が役目を終えかけているサインかもしれません。次の順番で、少しずつ減らします。
- 毎回渡していたご褒美を、「3回できたら1回」にする
- シールの代わりに、「今日も自分でできたね」と言葉だけで返す日を混ぜる
- 子どもと一緒に「卒業の日」を決め、表を外す日を小さく祝う
- 次にがんばりたい行動があれば、新しい表に移る
回数や順番は研究で決まったものではなく、この記事の目安です。CDCも、ご褒美の仕組みの最後の段階として、目標の行動を変えるか、仕組みそのものを終えることを挙げています。うまくいかないときは、子どもが本当にできる目標か、行動がはっきりしているか、ご褒美が子どもにとって魅力的か、の3つを見直すようすすめています。
やる気が下がったように見えるときは、褒め方そのものを見直したほうがよい場合もあります。褒めると逆効果になるサインもあわせて確かめてください。
読書のご褒美ポイントで、ひよりが本を読まなくなったとき
本が好きな8歳のひよりに、けいすけは「1冊読んだら1ポイント、10ポイントで好きな文房具」というポイント表を作りました。2週間でポイントはどんどん増えましたが、ひよりはうすい本ばかり選び、ポイントのない日曜には本を開かなくなっていました。
水野家は、読書のポイント表を外し、夕食のあとに「今日の本で、おもしろかったところを一つ教えて」と聞く時間に戻しました。ポイント表は、ひよりが苦手な朝の着替えに移し、2週間後に見直すことにしました。
この場面で変わったのは、ご褒美をやめたかどうかではありません。もともと好きなことと、始めにくいことを分けてご褒美を使う場所を選び直したことです。
ご褒美を工夫しても、朝の支度や宿題のたびに強い癇癪が続く、学校に行けない日が続くなど、生活への影響が大きいときは、ご褒美で何とかしようとせずに相談します。相談先は子育ての悩みの相談先ガイドで、急ぐ度合いと目的ごとに整理しています。
今日できる小さな一歩は、ご褒美を使っている行動を一つ書き出し、「これは、前から好きでしていたことかな」と考えてみることです。
子どものご褒美でよくある質問
子どもにご褒美をあげるのは、よくないことですか?
一律によくないわけではありません。研究では、もともと好きでしていることに、前もって物のご褒美を約束すると、意欲が下がることがありました。新しい習慣や気が進まない作業の始めには、行動を一つにしぼり、小さく、すぐに渡す形で使えます。
ご褒美シールに効果はありますか?
CDCは、幼い子が新しいことを習慣にするまで、小さなご褒美が必要なこともあるとし、絵を使った表をすすめています。行動を一つにしぼり、できたらすぐにはり、習慣になったら行動を変えるか表を卒業します。
ご褒美がないとやらなくなったら、どうすればいいですか?
毎回渡していたご褒美を「3回に1回」にし、言葉だけで返す日を混ぜて、少しずつ減らします。子どもと卒業の日を決めると、終わりが分かりやすくなります。急に全部やめるより、段階をふむほうが話し合いやすくなります。
ご褒美にお菓子をあげてもいいですか?
米国小児科学会は、甘いもののご褒美は、よい行動のたびに子どもが期待するようになると問題になるとしています。一方で、甘いものを全部禁止すると、かえって欲しくなることがあるとも書いています。おやつは家族の楽しみにして、行動のご褒美には一緒に過ごす時間などを使います。
ご褒美と、褒めることは何がちがいますか?
研究では、物のご褒美と言葉での前向きな声かけで、意欲への影響の出方がちがいました。物のご褒美は使う場面を選び、言葉は何ができたかを具体的に返します。言葉での返し方は、具体的に褒める声かけ例の記事にまとめています。
参考資料・出典
Psychological Bulletin(Deci EL, Koestner R, Ryan RM):A meta-analytic review of experiments examining the effects of extrinsic rewards on intrinsic motivation
公開・改訂: 1999年確認日: 2026年10月15日128研究のメタ分析。約束した物のご褒美がおもしろい活動への自発的な取り組みを下げること、子どもで物のご褒美の悪影響が大きい傾向、前向きなフィードバックは意欲を高めるが子どもでは弱い傾向を確認。本文で、思いがけない物のご褒美は影響なし、おもしろくない作業では下がらないことも確認The Behavior Analyst(Cameron J, Banko KM, Pierce WD):Pervasive negative effects of rewards on intrinsic motivation: The myth continues
公開・改訂: 2001年確認日: 2026年10月15日ご褒美は全体として意欲に害があるとは言えず、悪い影響はおもしろい活動に、物のご褒美を前もって約束し、出来とゆるく結びつけたときに見られたとする再分析Psychological Bulletin(Lepper MR, Henderlong J, Gingras I):Understanding the effects of extrinsic rewards on intrinsic motivation: uses and abuses of meta-analysis
公開・改訂: 1999年確認日: 2026年10月15日3つのメタ分析の結論が大きく異なることを示し、デシらのまとめのほうが研究結果を正しく表しているとしたコメントCenters for Disease Control and Prevention:Tips for Using Praise and Rewards
公開・改訂: 2026年4月30日確認日: 2026年10月15日幼児(toddlers and preschoolers)の保護者向けのページ。幼い子は習慣になるまで小さなご褒美が必要なことがある、行動のすぐあとに渡す、具体的な行動を選ぶ、絵を使った表、最初は多めに、もらったご褒美は取り上げない、うまくいかないときの3つの見直し、行動を変えるか仕組みを終える、を確認American Academy of Pediatrics / HealthyChildren.org:How to Tame Your Child's Sweet Tooth: Tips for Parents
公開・改訂: 2022年11月21日最終更新確認日: 2026年10月15日甘いもののご褒美は短期的には効いても、よい行動のたびに期待するようになると問題になること、甘いものを全部禁止するとかえって欲しくなり得ることを確認