「また体操服、忘れたの?」。子どもの忘れ物が多いと、朝の玄関で同じ言葉をくり返し、昼には学校まで届けに走ることもあります。「何回言ったら分かるの」と声を荒らげたあと、「言いすぎたかな」と落ちこむ。そんな毎日に、疲れていませんか。
忘れ物が続くと、「だらしない子」「親のしつけが甘い」と考えてしまいがちです。でも、持ち物を覚えておいて、順に用意する力は、小学生ではまだ育つ途中です。叱る回数を増やしても減らないのは、子どものやる気だけの問題ではないからかもしれません。
では、何を変えれば減るのでしょう。届けるべきか、届けないべきか。どこまで親が手伝ってよいのでしょう。
この記事では、忘れ物が起きる4つの地点の見分け方と、前の晩の時刻・置き場所・チェック表という仕組みを見ていきます。そのうえで、届けるかどうかの決め方と、本人に少しずつ任せる手順、相談の目安をまとめます。
忘れ物は叱って直すより、どこで起きたかを見て、仕組みを一つずつ足していくほうが減らしやすくなります。
子どもの忘れ物が多いのはなぜ?覚えておく力は育つ途中
子どもの忘れ物が多い背景には、持ち物を覚えておき、順に用意する力が、まだ育っている途中だということがあります。
ハーバード大学の子ども発達センターは、情報を覚えておいて使う力(ワーキングメモリー)などをまとめて「実行機能」と呼んでいます。こうした力は生まれつき備わっているものではなく、10代を通して大人になるころまで育ち続けるとされています。
同じセンターの資料では、高校生になるころに、自分の時間や課題をほぼ一人で管理することが求められるようになると書かれています。言いかえると、小学生のうちは、大人の手助けを借りながら練習している時期です。
明日の時間割を確かめ、プリントを思い出し、体操服を袋に入れ、朝それをランドセルに入れて家を出る。大人には一つの動きに見えても、子どもにとってはいくつもの手順が続いています。その途中のどこかで、つまずきやすいのです。
忘れ物はどこで起きている?4つの地点で見分ける
忘れ物を減らすには、まず「どこで起きたか」を分けます。同じ忘れ物でも、起きた地点によって、合う工夫がちがうからです。
| 起きた地点 | よくある様子 | 合う工夫 |
|---|---|---|
| 1. 知らなかった | 持ち物の連絡を聞いていない、連絡帳やプリントを家で出していない | 帰ったら連絡帳とプリントを出す場所を一つ決める |
| 2. 用意しなかった | 知っていたが、前の晩に準備しなかった | 前の晩の準備の時刻を決め、時間割を見る順番をそろえる |
| 3. 用意したが入れなかった | 体操服を出しておいたのに、玄関やリビングに置いたまま家を出た | 用意した物は、ランドセルの中か、すぐ横の決まった場所に置く |
| 4. 持って行ったが置いてきた | 学校や習い事に持って行った物を、帰りに持ち帰らない・なくす | 帰る前に見る物を一つだけ決める(「水筒と体操服袋」など) |
4つの地点は、家で見る場所を決めやすくするためにこの記事でまとめた形です。忘れ物が起きたら、「どうして忘れたの」と聞く前に、「知ってた? 用意した? どこに置いた?」と順に聞くと、地点が分かります。答えを責めずに聞くのが、続けるコツです。
忘れ物を減らす仕組み|前の晩の時刻・置き場所・時間割を見る順番
忘れ物を減らす仕組みは、「前の晩に準備する時刻」「置き場所」「時間割を見る順番」の3つです。全部を一度に始めず、4つの地点で多かった所に合わせて一つ選びます。
前の晩の準備の時刻を、毎日同じにする
「寝る前に準備してね」より、「お風呂の前に準備」のように、毎日ある動きの前後に結びつけると思い出しやすくなります。時刻を決めたら、しばらくは親も同じ時刻に声をかけます。
置き場所を一つにする
明日持って行く物は、ランドセルの中か、そのすぐ横の決まった場所に置きます。玄関のかごやフックでもかまいません。大事なのは、家族全員が「明日の物はここ」と分かることです。朝の出発前の置き場所の作り方は、出発前にぐずる子どもの朝の支度の記事にもまとめています。
時間割を見る順番をそろえる
時間割から準備するときは、毎回同じ順番で見ます。
- 連絡帳とプリントを出す
- 明日の時間割を指でなぞって読む
- 教科ごとに、教科書・ノートをランドセルに入れる
- 体操服・絵の具・上ばきなど、特別な物を確かめる
- 宿題と、出す物(プリント・提出物)を入れる
迷ったら、まず置き場所を一つ決めます。用意した物を入れ忘れる「地点3」なら、置き場所を決めるだけで、朝に思い出す手順が一つ減るからです。もし置き場所を決めても「地点2」の用意しない日が続くなら、次は前の晩の時刻を足します。
忘れ物チェックリストの作り方|家で無料で作れる
忘れ物チェックリストは、市販の物を買わなくても、紙1枚で作れます。大事なのは、項目を少なくすることと、子どもと一緒に作ることです。
忘れ物チェックリストを作る5つのポイント
- 毎日いる物(連絡帳・宿題・筆箱・水筒など)と、曜日で変わる物(体操服・上ばき・習い事の道具)を分ける
- 1枚の項目は5つくらいまで。多いときは、曜日ごとのカードに分ける
- 1・2年生なら、文字に絵や写真をそえる
- 置き場所のすぐそば(ランドセルの横やドアの内側)に貼る
- できたら子どもが自分で印をつける。親がつけるのは最初の数日だけ
チェックリストは、はじめは使っても、だんだん見なくなることがあります。見なくなったら、項目が多すぎないか、貼る場所が見えにくくないかを、子どもと一緒に見直します。カードを少ない枚数から続ける考え方は、見通しカードを家庭で続ける方法も参考になります。
忘れ物に怒る前に|イライラしたときの言い換え
忘れ物にイライラするのは、親が毎日がんばって声をかけているからです。それでも、怒った言葉は、次の忘れ物を減らす手がかりにはなりにくいものです。
| つい言う言葉 | 子どもに残りやすいこと | 言い換えの例 |
|---|---|---|
| 「何回言ったら分かるの」 | 自分はだめだという気持ちだけ | 「明日の分、置き場所に入れた?」 |
| 「どうして忘れるの」 | 答えられない質問になる | 「知ってた? 用意した? どこに置いた?」 |
| 「だらしないんだから」 | 性格を決めつけられた | 「体操服の日だけ、フックにかけてみよう」 |
| 「もう知らないからね」 | 困ったときに頼れない | 「明日は届けないよ。今夜、一緒に確かめよう」 |
言い換えがうまくいかない日があっても大丈夫です。同じ注意をくり返してしまう場面の見直し方は何度叱っても聞かない子どもの記事に、親のイライラが止まらない日の順番は子育てのイライラが止まらないときの記事にまとめています。
忘れ物を届ける?届けない?迷ったときの決め方
忘れ物を届けるかどうかは、その場で迷うより、家族で前もって線を決めておくと楽になります。
ハーバード大学の子ども発達センターは、実行機能が育つうえでの大人の役割を、こう説明しています。まず難しいことを手伝い、子どもの準備ができてきたら少しずつ手を離す。そして、子どもが自分で進め、失敗からも学べるようにする。この記事では、届けない日をつくることも、罰ではなく、この「少しずつ手を離す」の一つと考えます。
| 分け方 | 例 | 決め方 |
|---|---|---|
| 届ける | 薬、メガネ、アレルギーに関わる物など、体や安全に関わる物 | 年齢に関係なく届ける。学校にも連絡する |
| 学校に聞いてから | 代わりに借りられる物があるか、届けてよいかが学校で決まっている物 | 学校の決まりを担任に聞いて、家族の線を合わせる |
| 届けない日をつくる | 忘れても体や安全に関わらず、本人が困ることで次に気をつけられる物 | 前もって「明日からは届けないよ」と伝え、準備を一緒に確かめる |
この表は、家族で話し合うための例です。届けないと決めた物でも、子どもが強く落ちこむ、先生にきつく叱られるのが怖くて学校に行きたがらない、といった様子があれば、線を見直します。
もし「届けない」と決めたなら、忘れた日の夜に責めるのではなく、「明日はどこに置く?」と次の工夫を一つ一緒に決めます。
忘れ物を本人に任せる手順|親の手を少しずつ離す
忘れ物の準備は、最初から本人に任せるのではなく、親の手を4段階で少しずつ離していきます。
- 一緒にやる:親が時間割を読み上げ、子どもが入れる
- 横で見守る:子どもが自分で読み、親は横で見ているだけにする
- 最後だけ確かめる:子どもが一人で準備し、終わったら親が一度だけ見る
- 本人に任せる:子どもが一人で準備し、困ったときだけ親に言う
一つの段階が1〜2週間うまくいったら、次に進みます。体操服の日だけ忘れるなど、うまくいかない所があれば、そこだけ一つ前の段階に戻ってかまいません。
この4段階と「1〜2週間」の長さは、ハーバード大学の子ども発達センターが示す「手伝ってから少しずつ手を離す」考え方を、家で使える形にこの記事でまとめたものです。何年生で何段階、という決まりはありません。1・2年生なら1〜2段階目、高学年なら3〜4段階目を目安に、子どもの様子で決めます。
できない段階で叱るより、「ここまで一人でできたね」と、できた段階を言葉にします。「どうせ忘れる」と自信をなくしている子には、「できない」とすぐ諦める子どもへの声かけも役に立ちます。
忘れ物が続いたひより|水野家が見つけた「地点3」
8歳のひよりは、2週間で3回、体操服を忘れました。けいすけは毎朝玄関で「体操服は?」と聞いていましたが、3回目の朝はつい「何回目?」と声が大きくなりました。ひよりは「わかってる」とだけ言って、黙って家を出ました。
その週の個人面談で、まどかは担任のまさとに相談しました。
その夜、家族で4つの地点を順に確かめました。
次の1週間、けいすけは玄関で聞くのをやめ、フックだけを足しました。ひよりは月曜も木曜も、体操服袋を持って家を出ました。その次の週に一度、フックにかけ忘れた日がありましたが、玄関でフックが空なのを見て、自分で取りに戻りました。
この場面で変わったのは、ひよりの性格ではありません。忘れ物を「だらしなさ」で見るのをやめ、4つの地点に分けたことで、「用意はできていたのに、入れる場所がなかった」と分かったことです。学校での様子を担任と同じ見方で比べたことも、地点を見つける手がかりになりました。
今夜、最近の忘れ物を一つだけ選び、「知ってた? 用意した? どこに置いた?」と順に聞いてみてください。
忘れ物が多すぎるのは病気?ADHDかは家で決めない
忘れ物が多いことだけで、ADHD(注意欠如・多動症)などの病気や発達障害かどうかは決められません。
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、ADHDの子どもに見られることがある様子として「物をよく忘れたり、なくしたりする」を挙げています。一方で、子どもが集中やふるまいに困る時期があるのはふつうのことだともしています。ADHDでは、こうした様子が成長とともに自然に消えるわけではなく、長く続き、強く、学校・家・友だち関係で困りごとを起こすと説明しています。
さらにCDCは、ADHDを一つの検査で決めることはできず、眠りの問題、不安、気分の落ちこみ、学習障害なども似た様子を見せることがあるとしています。厚生労働省の睡眠ガイドも、睡眠不足が注意力の低下に関係すると書いています。小学生の睡眠時間の目安は9〜12時間です。
日本の発達障害情報・支援センターも、発達障害の種類を分けて診断するのは大変難しく、年齢や環境で目立つ様子が変わると説明しています。
だから、家での役目は診断名を当てることではありません。
- 4つの地点のうち、どこで忘れ物が多いか
- 仕組みを足したあとも、減らない忘れ物は何か
- 忘れ物のほかに、宿題・友だち関係・睡眠などで困っていることがあるか
この3つを書きとめておくと、相談先で話が早く進みます。
子どもの忘れ物で相談したほうがいい目安
相談するかどうかは、忘れ物の回数より、子どもが困っているか、生活にどれくらい響いているかで決めます。
子どもの忘れ物で相談したほうがいい目安
早めに相談
- 置き場所やチェック表などの仕組みを続けても、忘れ物やなくし物が長く続き、本人が困っている
- 忘れ物で先生に叱られることが続き、学校に行きたがらない、朝におなかが痛くなる
- 忘れ物だけでなく、話を聞けない、作業を終えられないなどの様子が、家でも学校でも続いている
- 「どうせ自分はだめ」と自分を責める言葉が増えている
- 夜に眠れない、朝起きられない、昼間ひどく眠そうな日が続いている
記録しながら相談を検討
- 4つの地点のうち、どこで忘れ物が起きているか
- 仕組みを一つ足した週と、足す前の週で、忘れ物の数がどう変わったか
- 家と学校で、忘れ物やなくし物の出方にちがいがあるか
相談先は、学校の担任やスクールカウンセラー、かかりつけの小児科、市区町村の子育て・発達の相談窓口、発達障害者支援センターです。診断名が決まっていなくても、忘れ物が起きた場面のメモだけで相談できます。
忘れ物のことを学校以外にも相談したいときは、子育ての悩みはどこに相談するかで、急ぐ度合いと目的に合う窓口を探せます。
子どもの忘れ物でよくある質問
忘れ物の準備は、何年生から子どもに任せればいいですか?
何年生からという決まりはありません。親が一緒にやる、横で見守る、最後だけ確かめる、本人に任せる、の4段階で、1〜2週間うまくいったら次に進みます。1・2年生は1〜2段階目、高学年は3〜4段階目を目安に、うまくいかない所だけ一つ前に戻ります。
忘れ物を届けると、甘やかしになりますか?
届けること自体が甘やかしとは言えません。薬やメガネなど体や安全に関わる物は届けます。それ以外は、学校の決まりを確かめたうえで、家族で前もって線を決めておくと、その場で迷わずにすみます。届けない日をつくるときは、罰ではなく、前もって伝えておきます。
毎朝、親が持ち物を確認するのはよくないですか?
よくないわけではありません。小学生は、覚えておいて順に用意する力が育つ途中です。最初は親が一緒に確かめ、うまくいってきたら「最後だけ確かめる」「困ったときだけ言う」へと、少しずつ手を離していけば十分です。
忘れ物チェッカーやアプリは使ったほうがいいですか?
道具を使う前に、紙1枚のチェックリストと置き場所から始めるのがおすすめです。項目を5つくらいまでにし、子どもと一緒に作ると続きやすくなります。それでも見落としが続くときに、道具を足すかどうかを考えます。
参考資料・出典
Center on the Developing Child, Harvard University:InBrief: Executive Function
公開・改訂: 2012年5月20日確認日: 2026年10月15日情報を覚えておいて使う力(working memory)などの実行機能は生まれつき備わっておらず、10代を通して大人になるころまで育ち続けるという説明Center on the Developing Child, Harvard University:Enhancing and Practicing Executive Function Skills with Children from Infancy to Adolescence
確認日: 2026年10月15日大人がまず難しい課題を手伝い、準備ができたら少しずつ手を離して子どもが自分で進め失敗からも学べるようにする「足場かけ」、高校生ごろには時間や課題をほぼ一人で管理することが求められること。活動例の効果はすべてが科学的に証明されたものではないと明記Centers for Disease Control and Prevention:Symptoms of ADHD
公開・改訂: 2026年6月1日更新確認日: 2026年10月15日ADHDの子どもに見られることがある様子に「物をよく忘れたり、なくしたりする」。子どもが集中やふるまいに困る時期があるのはふつうだが、ADHDでは症状が続き、学校・家・友だち関係で困りごとを起こすという説明Centers for Disease Control and Prevention:Diagnosing ADHD
公開・改訂: 2026年7月7日更新確認日: 2026年10月15日一つの検査で診断できないこと、睡眠の問題・不安・うつ・学習障害も似た様子を示すこと厚生労働省:健康づくりのための睡眠ガイド2023
公開・改訂: 2024年2月確認日: 2026年10月15日睡眠不足と注意力・判断力の低下の関係、こども版の推奨で小学生は9〜12時間の睡眠を参考にすること国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター:発達障害とは
確認日: 2026年10月15日発達障害の種類を分けて診断するのは大変難しく、年齢や環境で目立つ症状が変わること国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター:発達障害者支援センター・一覧
確認日: 2026年10月15日全国の発達障害者支援センターの所在地・連絡先。まず地域を担当するセンターに問い合わせるよう案内